企業価値担保権は、事業性融資推進法(正式名称「事業性融資の推進等に関する法律」、令和6年法律第52号、2024年6月14日公布)により創設された新しい担保制度で、中核部分は2026年5月25日に施行されました。事業全体を一体として担保にできる仕組みで、特に成長企業の事業性融資を後押しする狙いがあります。本記事では制度の概要と、金融機関・事業者の実務的なポイントを整理します。
企業価値担保権とは
企業価値担保権は、企業の保有する有形・無形の財産を一体として、事業全体に対して設定する担保権です。不動産・動産・債権・知的財産・契約上の地位など、事業に係る財産を包括的に担保化する仕組みで、のれんを含む事業の継続価値が反映される点が特徴です。
従来の担保制度との違い
従来の不動産担保・動産担保は、特定の資産を担保とする仕組みです。これに対して企業価値担保権は、事業全体の継続価値(ゴーイング・コンサーン・バリュー)を担保化する点が大きく異なります。これにより、不動産を持たない無形資産中心のスタートアップでも、事業の将来性を根拠とした融資が受けやすくなります。
制度設計のポイント
対象事業者・スキーム
企業価値担保権を設定できるのは会社法上の会社(株式会社・合名会社・合資会社・合同会社)に限られ、個人事業主のほか、一般社団法人・医療法人などの会社以外の法人も対象外です。スキーム上は、債務者(企業)を委託者とし、企業価値担保権信託会社を受託者とする「企業価値担保権信託契約」に基づいて担保権が設定されます。融資する金融機関は信託の受益者として担保価値の便益を受ける構造となります。
担保権者の責務
企業価値担保権を設定した金融機関には、事業継続をモニタリングし、必要に応じて経営改善を支援する責務が伴います。「貸して終わり」ではなく、伴走型の融資関係を求められるのが特徴です。
実行手続き
担保実行に際しては、事業譲渡・株式譲渡など、事業全体を一括で換価することが想定されます。個別資産の競売とは異なる、企業価値の最大化を意識した実行プロセスとなります。
金融機関にとっての実務的影響
企業価値担保権の活用が広がると、伝統的な不動産担保依存からの脱却が進む可能性があります。一方で、企業価値の評価には事業性評価・将来性評価のノウハウが不可欠で、これまでの担保評価とは異なる審査体制の整備が必要になります。
事業者側のメリットと留意点
不動産を保有しない事業者でも、事業性に応じた融資が受けやすくなる点は大きなメリットです。一方で、担保権者である金融機関による経営モニタリングが入るため、ガバナンス体制の整備や、経営情報の継続的な開示準備が求められます。
不動産担保との併用
当面は、企業価値担保権と従来の不動産担保が併用されるケースが多くなると見られます。不動産担保の実務と新制度の特性を両立できる体制を整えることが、金融機関の競争力につながります。





