企業が保有する不動産、いわゆるCRE(企業不動産)の見直しが進んでいます。ただ、実際に「誰が、どこの、何を、誰に売ったのか」は、有価証券報告書やプレスリリースにはほとんど出てきません。本記事では、TRUSTARTが保有する法人所有不動産の登記データから確認できた企業不動産の売却の動きを、分析レポート第19回「不動産オーナーデータから見える企業不動産の動き」(2026年8月)をもとに5つのトレンドに整理します(出典:TRUSTART「不動産ビッグデータ分析レポート第19回」)。
掲載している事例は当社データから確認できた範囲のもので、全数を網羅するものではありません。一部の企業名は業種に置き換えています。
この記事の要点
トレンド1: 銀行・製造業で社員寮・社宅の売却が進む
銀行や製造業の企業が社員寮・社宅を売却する事例が確認されました。売主は都市銀行、信託銀行、地方銀行のほか、大手製鉄会社や大手機械メーカーです。企業の社員寮・社宅保有の見直しを背景に、保有から売却への転換が進んでいると考えられます。
買主には鉄道系・銀行系の不動産会社や住宅メーカーが目立ち、住宅用地としての再活用が進んでいる様子がうかがえます。所在地は京都市左京区、兵庫県尼崎市、さいたま市浦和区、東京都文京区、堺市西区、千葉県市川市など、住宅需要のある都市部です。
| 売主(業種) | 所在 | 買主(業種) |
|---|---|---|
| 都市銀行 | 京都市左京区 | ビル管理会社 |
| 都市銀行 | 兵庫県尼崎市 | 不動産会社(鉄道系) |
| 信託銀行 | 東京都文京区 | 不動産会社(鉄道系) |
| 大手製鉄会社 | 堺市西区 | 住宅メーカー |
| 大手機械メーカー | 千葉県市川市 | 不動産会社(建設・マンション開発系) |
(レポート掲載7件のうち5件を抜粋)
トレンド2: 銀行支店の統廃合で店舗用地が売却される
銀行の支店統廃合によると思われる店舗用地の売却が見られました。特徴的なのは受け皿の違いです。都市銀行の支店跡地は、同じフィナンシャルグループ系列の不動産会社や関連会社に売却される例が目立ちます。一方、地方銀行の支店跡地は鉄道系の不動産会社や生命保険会社など、系列外への売却も見られ、資産の受け皿に違いがあることがうかがえます。
所在地は兵庫県西宮市、埼玉県ふじみ野市、大阪府豊中市、東京都台東区・多摩市・目黒区・練馬区、三重県鈴鹿市、名古屋市名東区・中村区などで、都市部の駅前や幹線道路沿いの店舗用地が中心です。レポートでは売主・買主の企業名を含む11件を掲載しています。
トレンド3: ガソリンスタンド用地は「運営継続型」と「撤退型」
ガソリンスタンド数の減少が続くなか、給油所用地の売却には2つの動きが見られました。
| 類型 | 内容 | 確認できた例 |
|---|---|---|
| 運営継続型 | 営業は従来から特約店(地場の運営会社)が担い、土地のみを石油元売りが保有していた給油所について、その土地を特約店へ売却する。営業主体も営業状況も変わらず、土地の所有権だけが元売りから運営会社へ移る | 札幌市北区、仙台市青葉区、東京都目黒区、東京都台東区(台東区の売却先は給油所運営企業ではありませんが、2026年7月現在営業継続中と見られるため運営継続型に分類) |
| 撤退型 | 営業を終了した跡地の売却。給油所ネットワークの縮小に伴う不動産処分 | 札幌市東区(地場の土木工事会社)、大阪市平野区(収益不動産流動化系の不動産会社)、名古屋市守山区(地場の法人) |
運営継続型は、石油元売りが土地の保有をやめても給油所は残る取引です。地域のガソリンスタンドが「なくなる」動きと「所有者だけ変わる」動きは、登記を見なければ区別できません。
トレンド4: 底地の売却。買い手は底地投資に特化した不動産会社
事業会社が保有する土地を底地として売却し、建物は自社所有のまま事業を継続する動きが見られました。今回確認できた事例の多くは、同一の底地投資特化型の不動産会社が買主となっており、バイクショップチェーンを中心に、業種を問わず全国各地(京都市、札幌市、埼玉県所沢市、広島市、名古屋市、相模原市、福岡市など)で底地取得を進めている実態がうかがえます。
底地として売れば、事業会社は店舗を使い続けながら土地の資金化ができ、買主は地代収入を得る地主になります。名古屋市中区のホテルの事例は、既存の自社保有地を売却したものではなく、前所有者から土地と建物がそれぞれ底地投資会社とホテル運営会社に取得された、新規開発型の底地活用とみられます。
大阪府豊中市では、地場デベロッパーが約20年間更地だった土地にスーパーマーケットチェーンの出店を企画・誘致し、その後、新聞社に底地を売却したと見られる事例もありました。建物はスーパーマーケットチェーンが自ら建設・所有しています。新聞社による不動産投資の多角化と、地場デベロッパーの開発フロー型ビジネスが組み合わさった事例です。
トレンド5: 信託受益権を用いた実質売却
事業会社が保有不動産を信託銀行に信託して受益権化し、実質的に売却する動きも見られました。総合商社の保有不動産(東京都中野区・千代田区・目黒区)では、信託設定と同日に受益者が別法人へ変更されており、信託受益権を用いた実質的な売却が行われていました。この方式では、通常の不動産売買に比べて買主側の登録免許税・不動産取得税を抑えられます。
富士ソフトの案件は公表資料でも確認できます。日本都市ファンド投資法人は2025年8月27日、富士ソフトグループが保有するオフィスビル12物件と底地2物件の計14物件を、セール・アンド・リースバック取引で約686億円で取得すると発表しました。同法人はこれを「KKRと協働したCREカーブアウト取引」と位置づけています(出典:日本都市ファンド投資法人「国内不動産及び国内不動産信託受益権の取得並びに貸借に関するお知らせ」(2025年8月27日)および同日付の補足説明資料)。当社データでも富士ソフト汐留ビル(港区)や富士ソフト新名古屋ビル(名古屋市中村区)など複数物件で所有権の移転を確認できました。仕組みと税務の詳細は信託受益権を使った不動産の実質売却とはで解説しています。
どの企業に土地売却の圧力がかかりやすいか
ここまでの事例は、いずれも登記情報から確認できたものです。レポートでは視点を変え、当社の登記データと上場企業の財務情報を突き合わせ、ROE(2023年〜2025年の平均)と総資産に占める土地(簿価)の割合で各社を配置しました。
この図の左上、つまりROEが低く、土地の簿価が総資産に占める割合が高い領域にある企業ほど、土地売却の圧力が働きやすいと考えられます。東京証券取引所が上場会社に「保有する資産について、価値創出のため最適な状態となっているか」の点検を求めているなかで(出典:東京証券取引所「『資本コストや株価を意識した経営』に関する要請のアップデート」2026年4月28日)、資本効率が低く土地を多く抱える企業は、投資家からの説明要求も強まります。レポートでは、該当する25社について土地簿価の総資産比率・ROE・PBR・株価の市場比を一覧にしています。
5つの動きに共通すること
業種も手法も異なりますが、いずれも本業の効率化や資産の圧縮・流動化を背景とした動きです。そして共通して、プレスリリースや有価証券報告書には出てこない取引がほとんどです。社員寮1棟、支店1か所、給油所1か所の売却は個別には開示されず、登記に記録されるだけです。
不動産会社にとっては、これらは提案の入口です。社宅を売り始めた銀行、支店を統廃合している地方銀行、底地を買い集めている投資会社は、いずれも次の取引の相手になり得ます。金融機関にとっては、取引先が信託受益権化で実質的に不動産を手放している場合、所有者欄を見ているだけでは把握できない担保・与信上の変化です。
企業不動産の動きを追うには
こうした動きを継続的に捉えるには、法人名から保有不動産を検索でき、所有権の移転や信託の設定を追えるデータが必要です。TRUSTARTのR.E.DATA CRE(リデータCRE)は、全国の不動産登記を起点に法人と不動産を紐づけたデータベースで、上場・非上場を問わず法人の保有不動産を法人名から一覧でき、エリアや用途地域、業種などの条件から所有法人を逆引きすることもできます。本レポートの分析も、このデータを用いて行っています。
よくある質問
Q. 企業の不動産売却はなぜ増えているのですか?
A. 本業の効率化と資産の圧縮・流動化が主な背景です。東京証券取引所が上場会社に保有資産の点検を求めていることや、2027年4月以降に始まる事業年度から適用される新リース会計基準で借りている物件も原則として資産・負債に計上されることも、保有か賃借かを見直す動きを後押ししています。
Q. 社員寮や支店の売却はどこで公表されますか?
A. 個別の物件の売却は、金額が大きい場合を除き、プレスリリースや有価証券報告書には通常出てきません。売買が行われると不動産登記に所有権移転が記録されるため、登記データを法人単位で追うことで把握できます。
Q. 底地として売るのと更地で売るのはどう違いますか?
A. 底地として売る場合、売主は建物を持ち続けて事業を継続しながら土地を資金化できます。買主は借地人から地代を受け取る地主になります。更地や建物付きで売る場合は、事業を移転または終了する必要があります。
Q. 信託受益権による売却は登記でわかりますか?
A. 所有者欄は受託者である信託銀行のまま変わらないため、所有者欄だけでは分かりません。信託目録の受益者を確認し、信託設定と同日に受益者が変わっていれば実質売却と判断できます。
Q. 非上場企業の不動産売却も分かりますか?
A. 分かります。不動産登記は上場・非上場を区別しないため、登記データを法人名で名寄せすれば、非上場企業や上場企業の子会社の保有不動産と、その売却も確認できます。
まとめ
登記データから見える企業不動産の売却は、社員寮・社宅、銀行支店用地、ガソリンスタンド用地、底地、信託受益権を用いた実質売却の5つの動きに整理できます。買い手は鉄道系・銀行系の不動産会社、住宅メーカー、底地投資会社、J-REITと動きごとに異なり、いずれも開示資料にはほとんど現れません。
財務データと突き合わせれば、次に土地を手放しやすい企業の当たりもつけられます。企業不動産の提案先や与信先の変化を捉えるには、登記を法人単位で追う体制が出発点になります。
関連記事
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FREE REPORT
全事例の売主・所在・買主と、「動意のある企業保有不動産」25社の一覧を掲載。
分析レポート第19回「不動産オーナーデータから見える企業不動産の動き」では、本記事で抜粋した5つのトレンドの全事例(売主・所在・買主)と、ROE×土地簿価比率で上場企業を配置した散布図、該当25社の財務指標一覧を掲載しています。
参考(一次情報)
本記事の事例・数値は、以下の資料に基づいています。
- TRUSTART「不動産ビッグデータ分析レポート第19回 不動産オーナーデータから見える企業不動産の動き」(2026年8月、トラスタート データサイエンス室。当社保有の法人所有不動産データおよび上場企業の財務情報に基づく分析)
- 日本都市ファンド投資法人「国内不動産及び国内不動産信託受益権の取得並びに貸借に関するお知らせ」および「本日のプレスリリースに関する補足説明資料」(2025年8月27日。富士ソフトグループ保有のオフィス14物件のセール・アンド・リースバック取引、取得額約686億円)
- 東京証券取引所「『資本コストや株価を意識した経営』に関する要請のアップデート」(2026年4月28日。対応のポイント「保有する資産について、価値創出のため最適な状態となっているか」)
- 日本公認会計士協会「会計・監査用語かんたん解説集:新リース会計基準」(2027年4月1日以後開始する事業年度から原則適用、借手は原則すべてのリースで使用権資産・リース負債を計上)
※掲載している事例は当社が保有するデータから確認できた範囲のものであり、全数を網羅するものではありません。一部の企業名は業種に置き換えて記載しています。個別の売却・活用・税務の判断にあたっては各分野の専門家にご相談ください。





