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データ活用・CRE· 10 min read

信託受益権を使った不動産の実質売却とは?仕組み・税金・登記での見え方を事例で解説

企業が保有不動産を信託銀行に信託し、その信託受益権を譲渡して実質的に売却する取引が増えています。現物売買との違い、登録免許税と不動産取得税の扱い、金融商品取引法上の位置づけ、登記簿でどう見えるかを法令の条文に沿って整理し、TRUSTARTの登記データで確認した総合商社・富士ソフトの事例を紹介します。

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不動産ビッグデータ分析レポートの調査・分析を担当

金融機関向け用語解説#CRE#データ活用#証券化・流動化
信託受益権を使った不動産の実質売却とは?仕組み・税金・登記での見え方を事例で解説

信託受益権を使った不動産の実質売却とは、不動産の所有者(企業)が物件を信託銀行などに信託して信託受益権に変え、その受益権を買主に譲渡することで、不動産の所有権を動かさずに実質的な売却を実現する取引です。登記簿上の所有者は受託者である信託銀行のまま変わらず、受益者だけが売主から買主に入れ替わります。

この方式は不動産ファンドやJ-REITの取引で一般に広く使われていますが、近年は事業会社が本社ビルや賃貸物件を手放す場面、つまり企業不動産(CRE)の見直しでも使われています。本記事では、現物の不動産売買との違い、登録免許税・不動産取得税の扱い、金融商品取引法上の位置づけを法令の条文に沿って整理したうえで、TRUSTARTが登記データで確認した総合商社と富士ソフトの事例を紹介します。

この記事の要点

仕組み
企業が不動産を信託銀行に信託し、信託受益権を買主へ譲渡する。所有権は受託者に留まり、受益者が入れ替わる。
税金
信託設定時の所有権移転は登録免許税・不動産取得税とも非課税。受益権の譲渡は不動産の取得に当たらないと解され不動産取得税がかからず、登記も受益者変更のみ。
規制
信託受益権は金融商品取引法上のみなし有価証券。売買の媒介は第二種金融商品取引業の登録が必要。
登記での見え方
所有者欄は信託銀行、信託目録に受益者。信託設定と同日に受益者が別法人へ変わっていれば実質売却のサイン。

信託受益権とは

信託とは、財産の所有者(委託者)が信頼できる相手(受託者)に財産を移転し、一定の目的に従って管理・処分してもらう仕組みです。信託された財産から生じる利益を受け取る権利が信託受益権で、その権利を持つ人を受益者と呼びます。不動産を信託した場合、所有権は受託者(通常は信託銀行)に移り、委託者は賃料収入や売却代金を受け取る権利、すなわち不動産信託受益権を持つことになります。

ポイントは、不動産そのものは受託者名義のまま、受益権だけを売買できることです。受益権を買った人は、不動産を直接所有していなくても、賃料などの経済的利益を受け取れます。第二種金融商品取引業協会は、不動産の信託受益権は「実質的に不動産と同等の経済的価値を有する」と説明しています(出典:一般社団法人第二種金融商品取引業協会「信託受益権」)。

現物の不動産売買との違い

同じ物件を手放す場合でも、現物で売るか、信託受益権にして売るかで、動くもの・かかる税金・必要な資格が変わります。

現物不動産の売買信託受益権の売買
移転するもの不動産の所有権信託受益権(所有権は受託者のまま)
登記所有権移転登記信託目録の受益者変更の登記
登録免許税所有権移転登記に不動産の価額に応じた税率登記事項の変更の登記として扱われ、不動産1個につき1,000円
不動産取得税買主に課税不動産の取得に当たらないと解されるため課税されない
適用される法律宅地建物取引業法金融商品取引法(受益権はみなし有価証券)
売買を仲介できる者宅地建物取引業者第二種金融商品取引業の登録業者

(登録免許税・不動産取得税・金融商品取引法の根拠は次の見出しで条文とともに示します)

なぜ企業は受益権化して売るのか

実質売却の動機は、主に税負担と取引の柔軟性にあります。

1. 信託設定時の所有権移転は非課税

企業が不動産を信託銀行に信託する際、所有権は委託者から受託者に移転しますが、この移転登記には登録免許税がかかりません。登録免許税法は「委託者から受託者に信託のために財産を移す場合における財産権の移転の登記」を非課税と定めています(出典:登録免許税法第7条第1項第1号)。不動産取得税も同様で、地方税法は「委託者から受託者に信託財産を移す場合における不動産の取得」を非課税としています(出典:地方税法第73条の7第3号)。

ただし、所有権移転と同時に行う「信託の登記」には登録免許税がかかります。税率は不動産の価額の1,000分の4です(出典:登録免許税法別表第一 第一号(十)イ)。

2. 受益権の譲渡には不動産取得税がかからない

信託受益権を買主に譲渡しても、不動産の所有権は受託者に留まったままです。不動産取得税は「不動産の取得」に対して課される税であるため(地方税法第73条の2第1項)、所有権が動かない受益権の譲渡は課税の対象に当たらないと解されています。登記も所有権移転ではなく、信託目録の受益者を書き換える変更の登記で済み、登記事項の変更の登記として不動産1個につき1,000円の登録免許税で扱われます(参照:登録免許税法別表第一 第一号(十四))。現物売買であれば買主が負担する不動産取得税と所有権移転登記の登録免許税が、受益権売買ではほぼ発生しないわけです。

3. 買主側の事情にも合う

J-REITや不動産ファンドは、物件を信託受益権の形で保有することが多くあります。売主があらかじめ受益権化しておけば、買主はそのまま受け入れられ、現物での取得に比べて手続きと税負担を抑えられます。

4. 受益権の売買は金融商品取引法の世界

信託受益権は、金融商品取引法第2条第2項第1号により有価証券とみなされます。その売買や媒介を業として行うには、第二種金融商品取引業の登録が必要です(出典:金融商品取引法第2条第2項第1号、第28条第2項第2号)。宅地建物取引業の免許だけでは受益権の仲介はできないため、不動産会社がこの取引に関わるには、第二種金融商品取引業の登録を持つ会社と組む必要があります。

登記簿ではどう見えるか

実質売却は所有権移転を伴わないため、登記簿の甲区(所有権に関する事項)を見ただけでは「売った」ことがわかりません。所有者欄には受託者である信託銀行の名前が載り、「信託」の登記と信託目録の番号が記載されます。受益者が誰かは信託目録に書かれており、受益者の変更もここに記録されます。

TRUSTARTの登記データで確認できた事例では、信託設定の登記と同じ日に受益者が別の法人へ変更されていました。信託の設定と受益者の変更が同日に行われていれば、信託受益権を用いた実質的な売却が行われたと読み取れます。逆にいえば、所有者欄の変化だけを追っている限り、企業不動産のこうした動きは見落とされます。

登記データで確認した事例

TRUSTARTの分析レポート第19回「不動産オーナーデータから見える企業不動産の動き」では、法人所有不動産のデータから、信託受益権を用いた実質売却の事例を確認しています(出典:TRUSTART「不動産ビッグデータ分析レポート第19回」)。

売主所在受託者・買主
総合商社東京都中野区・千代田区・目黒区三井住友信託銀行(受託者)
不動産会社(総合商社系)東京都文京区三菱UFJ信託銀行(受託者)
富士ソフト名古屋市中村区・東京都江東区みずほ信託銀行(受託者)
富士ソフト東京都港区・神奈川県厚木市日本都市ファンド投資法人(J-REIT)

総合商社の案件では、信託設定と同日に受益者が別法人へ変更されており、信託受益権を用いた実質的な売却が行われていました。

富士ソフトの案件は、公表資料でも裏付けが取れます。日本都市ファンド投資法人は2025年8月27日、富士ソフトグループ(富士ソフトおよびサイバーコム)が保有するオフィスビル12物件と底地2物件の計14物件を、セール・アンド・リースバック取引で取得すると発表しました。取得額は約686億円で、同法人は「KKRと協働したCREカーブアウト取引」と位置づけています(出典:日本都市ファンド投資法人「国内不動産及び国内不動産信託受益権の取得並びに貸借に関するお知らせ」(2025年8月27日)および同日付の補足説明資料)。プレスリリースの表題にあるとおり、取得対象には現物不動産だけでなく不動産信託受益権が含まれています。当社データでも富士ソフト汐留ビル(港区)や富士ソフト新名古屋ビル(名古屋市中村区)など複数物件で所有権の移転を確認できました。

投資ファンドによる企業買収と、その企業が持つ不動産の切り出し(カーブアウト)が一体で進む取引は、今後も増えると当社は見ています。買収後の資産圧縮の局面では、本社ビルであっても売却対象になり、その手段として信託受益権化とセール・アンド・リースバックが組み合わされます。

注意点

  • 信託の費用がかかる。受託者への信託報酬や、信託設定時の信託登記の登録免許税(1,000分の4)は発生します。取引規模が小さいと、不動産取得税の節約分を上回ることがあります。
  • 買い手が限られる。受益権の買主は金融商品取引法の枠組みで取引できる投資法人・ファンド・事業会社が中心で、一般に現物不動産より買い手の層は限られます。
  • 現物に戻すには手続きが要る。信託を終了して受益者が所有権を取り戻す場合、委託者兼受益者が信託の効力発生時から変わっていないなどの要件を満たさないと、登録免許税や不動産取得税の非課税扱いを受けられません(出典:登録免許税法第7条第1項第2号、地方税法第73条の7第4号)。受益権を買った第三者が現物に戻す場合は、この非課税の要件に当たらない点に注意が必要です。
  • 売却の事実が外から見えにくい。登記簿の所有者欄が変わらないため、取引先や担保物件の動きを所有者名だけで追っていると気づけません。信託目録まで確認する運用が必要です。

不動産会社・金融機関にとっての意味

金融機関にとっては、担保や与信先の保有不動産が信託受益権化されると、所有者欄に変化がないまま実質的な所有者が変わることになります。信託目録の受益者を含めて把握する体制が、担保管理と与信判断の両面で重要になります。

不動産会社にとっては、企業不動産の売却提案の選択肢が広がります。買主がJ-REITやファンドであれば受益権での引き渡しを前提に組み立てられますし、税負担の違いは売主企業への提案材料になります。ただし受益権の仲介そのものは第二種金融商品取引業の領域なので、登録業者との連携が前提です。

こうした取引を見つけるには、所有者名だけでなく信託の登記と受益者の変更を含めて法人の保有不動産を追える必要があります。TRUSTARTのR.E.DATA CRE(リデータCRE)は、全国の不動産登記を起点に法人と不動産を紐づけたデータベースで、法人名から保有不動産を横断的に確認できます。

よくある質問

Q. 信託受益権とREIT(リート)の違いは何ですか?

A. 信託受益権は個別の不動産を信託したときに生じる権利で、特定の物件と1対1で結びついています。REITは多数の不動産(信託受益権の形で保有するものを含む)を組み入れた投資法人に投資する仕組みで、投資家は個別物件ではなく投資法人の投資口を持ちます。REITが物件を買うときに信託受益権の形で取得することが多い、という関係です。

Q. 信託受益権を現物の不動産に戻すことはできますか?

A. できます。信託を終了させれば、受託者から受益者に所有権が移転します。ただし、信託の効力が生じた時から委託者のみが受益者であり続けた場合に限って登録免許税と不動産取得税が非課税になるため、受益権を途中で買った第三者が現物に戻す場合は課税されます。

Q. 信託受益権の売買に不動産取得税はかかりますか?

A. かからないと解されています。不動産取得税は不動産の取得に対する税で(地方税法第73条の2第1項)、受益権の譲渡では不動産の所有権は受託者に留まったままだからです。信託設定時の委託者から受託者への移転も、地方税法第73条の7第3号により非課税です。

Q. 不動産会社が信託受益権の売買を仲介できますか?

A. 宅地建物取引業の免許だけではできません。信託受益権は金融商品取引法上の有価証券とみなされるため、その売買の媒介は第二種金融商品取引業の登録が必要です。

Q. 登記簿で実質売却を見分ける方法はありますか?

A. 所有者欄に信託銀行が載り「信託」の登記がある物件について、信託目録の受益者を確認します。信託設定と同じ日に受益者が別法人に変更されていれば、受益権の譲渡による実質売却が行われた可能性が高いと判断できます。

まとめ

信託受益権を使った実質売却は、不動産を信託受益権に変えて受益権だけを譲渡する取引です。信託設定時の所有権移転は非課税で、受益権の譲渡も不動産の取得に当たらないと解されるため不動産取得税がかからず、登記も受益者変更で済むことから、現物売買より税負担を抑えられます。一方で、受益権は金融商品取引法上の有価証券であり、仲介には第二種金融商品取引業の登録が要ります。

登記簿の所有者欄が変わらないため、企業不動産の動きを追う側には見落としやすい取引でもあります。信託目録の受益者まで含めて法人の保有不動産を把握することが、金融機関の担保管理でも不動産会社の提案でも出発点になります。

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参考(一次情報)

本記事中の税制・法令に関する記述は、以下の条文および公表資料を確認のうえ作成しています。

  • 登録免許税法(第7条第1項第1号・第2号:信託による財産権の移転登記の非課税。別表第一第一号(十)イ:所有権の信託の登記 不動産の価額の1,000分の4。同(十四):登記事項の変更の登記 不動産1個につき1,000円)
  • 地方税法(第73条の2第1項:不動産取得税は不動産の取得に対して課税。第73条の7第3号・第4号:委託者から受託者への信託財産の移転、および信託終了時の委託者兼受益者への移転に係る不動産取得税の非課税)
  • 金融商品取引法(第2条第2項第1号:信託の受益権を有価証券とみなす規定。第28条第2項第2号:みなし有価証券の売買・媒介等を第二種金融商品取引業とする規定)
  • 一般社団法人第二種金融商品取引業協会「信託受益権」(不動産信託受益権の経済的性質)
  • 日本都市ファンド投資法人「国内不動産及び国内不動産信託受益権の取得並びに貸借に関するお知らせ」および「本日のプレスリリースに関する補足説明資料」(2025年8月27日。富士ソフトグループ保有のオフィス14物件のセール・アンド・リースバック取引、取得額約686億円、KKRと協働したCREカーブアウト取引)
  • TRUSTART「不動産ビッグデータ分析レポート第19回 不動産オーナーデータから見える企業不動産の動き」(2026年8月。信託受益権を用いた実質売却の事例)

※土地の所有権の信託の登記には租税特別措置法による軽減税率が設けられてきましたが、適用期限は税制改正で変わるため、本記事では本則の税率のみを記載しています。個別の取引の税務・法務については税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。

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