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データ活用・CRE· 12 min read

CRE戦略の立案ステップ — 法人保有不動産の最適化

CRE戦略はどう進めればよいのか。国土交通省ガイドラインが示すCREマネジメントサイクル(Research→Planning→Practice→Review→Act)に沿って、保有不動産の棚卸し、ポジショニング分析、売却方法の選び方、実行後の検証までを一次情報に基づいて解説します。2027年4月からの新リース会計基準が「保有か賃借か」の判断に与える影響も整理します。

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不動産会社向けハウツー#CRE#データ活用
CRE戦略の立案ステップ — 法人保有不動産の最適化

CRE戦略とは、企業不動産(CRE: Corporate Real Estate)を企業価値向上の観点から経営戦略的視点で見直し、不動産投資の効率性を最大限向上させていく考え方です。では、実際にはどのような手順で進めればよいのでしょうか。

国土交通省の「CRE戦略実践のためのガイドライン」は、CRE戦略の実践手法としてCREマネジメントサイクルという標準プロセスを示しています(出典:国土交通省「CRE戦略実践のためのガイドライン」(2010年改訂版)第1章Ⅳ)。本記事では、このサイクルに沿って、CRE戦略立案の実務ステップを一次情報に基づいて解説します。

全体像 — CREマネジメントサイクルの5ステップ

ガイドラインが示す標準的なCREマネジメントサイクルは、次の5つのフェーズで構成されます。

ステップフェーズ主な作業
1Research(リサーチ)CREフレームワークの構築、CRE情報の棚卸し
2Planning(プランニング)ポジショニング分析・個別不動産分析・最適化シミュレーション・財務影響分析、施策書の作成
3Practice(プラクティス)アクションプランに基づく施策の実行(継続所有・購入・売却)
4Review(レビュー)施策と実行結果の比較・モニタリング
5Act(フィードバック)レビュー結果をResearchに反映しサイクルを完成

(出典:前掲ガイドライン第1章Ⅳ「CRE最適化マネジメントの実践」)

ポイントは、CRE戦略が一度きりのプロジェクトではなく、回し続けるサイクルとして設計されていることです。以下、各ステップを見ていきます。

ステップ1: Research — 基盤づくりと保有不動産の棚卸し

リサーチは「CREマネジメントを実践するための基盤づくり」に当たり、ガイドラインはその位置づけを「極めて重要」としています。作業は大きく2つです。

1-1. CREフレームワークの構築

CREマネジメントを正しいルールで実践するための枠組みづくりです。具体的には、遂行主体となる管理組織の整備(大企業では財務・人事・総務などを横断する対応組織、中小企業では担当役員がCRE担当役員を兼任する形が望ましいとされます)と、文書の整備(「CREマネジメント基本方針」「CREマネジメントマニュアル」「目標」の3点)を行います。あわせて、不動産の所有・運用に伴うリスクを洗い出し、対応の時期・期間・費用を定めた「リスク対応計画」を織り込みます(出典:前掲ガイドライン)。

1-2. CRE情報の棚卸し

ガイドラインは棚卸しを「企業不動産の総合的調査」と定義し、この調査によって初めて企業不動産の全体像が把握できるとしています。整理すべき情報は次の4分類です。

情報の種類内容(ガイドラインの定義)
物理的情報土地・建物の現況等
権利的情報物権の現況、適用される法令・条例等
経済的情報修繕費等の支出情報、賃貸料等の収入情報等
運用情報各種契約書、設計図、立地(地価・圏域人口動向等)等

実務では、このステップ1が最初の壁になります。管理台帳が部門ごとに散在していたり、過去の取得物件が現場担当者の記憶頼みになっていたりすると、棚卸しの網羅性が担保できません。権利的情報の基礎となる不動産登記も、法務局での取得は原則地番ベースのため、「自社名義の物件を全国から漏れなく洗い出す」作業を人手で行うのは現実的ではありません。全国の登記情報を法人名義で横断検索できるデータベースを使えば、この棚卸しを正確かつ短時間で行えます。

ステップ2: Planning — 分析と最適化施策の立案

プランニングでは、Researchで整備した情報をもとに複数の観点から分析を行い、経営者層が自社ビルの売却・工場用地の取得・大規模店舗の賃借といった重要な意思決定を行う際の判断支援レポート「CRE最適化施策書(プログラム)」を作成します(出典:前掲ガイドライン第1章Ⅳ-4)。

2-1. ポジショニング分析 — 全体の傾向をつかむ

保有不動産を「事業用・非事業用」を横軸、「コア・ノンコア」を縦軸とする2軸でマッピングし、4象限に分類したうえで象限ごとに詳細分析を行います。ここでいうコア事業とは経営戦略上の中核事業を指し、ノンコア事業はそれ以外を指します。この分類により、自社の不動産保有の傾向が可視化されます。

ガイドラインは、象限分析に加えて次のような切り口も挙げています。

  • CREの所有形態別収益率:賃借か所有かといった形態別の収益率を分析します。個別物件ではなく営業エリアや管理主体単位に広げると、戦略策定時の判断指標として有効です。
  • 所有CRE有効活用率分析:所有不動産の使用価値と市場価値(時価)の差異を分析します。ガイドラインは、所有不動産の潜在価値を狙った企業買収の動向を背景に、このニーズが高まっていると指摘しています。

2-2. 個別不動産分析 — 物件単位で見る

個別の不動産を経営資源として捉え、経営効率・重要性・リスクを分析します。

分析内容
LCC(ライフサイクルコスト)分析建築・設備の維持、メンテナンス、運用に係るコストが中長期にどれだけ必要かを把握する
個別CRE収益率分析個別物件の収益・コストデータを統合し、収益率を把握する
CRE遵法性分析建築基準法や宅地建物取引業法等の法令・建築上のルールに適合しているかを把握する

(出典:前掲ガイドライン第1章Ⅳ-4)

2-3. シミュレーションと財務影響分析

上記の分析に基づき、継続所有・使用、購入、売却など複数のケースを設定して最適化シミュレーションを行います。さらに、各施策が財務にどう影響するかを損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書の三面で捉えます。これらの結果を「CRE最適化施策書(プログラム)」として取りまとめ、経営者層へ報告するまでがPlanningの範囲です。

なお、この財務影響分析は2027年4月からの新リース会計基準の影響を織り込む必要があります(後述)。

ステップ3: Practice — 施策の実行

経営者層の判断を踏まえて「CRE最適化施術書(アクションプラン)」を作成し、実行に移します。ガイドラインは具体的施策を次の3種類に整理しています。

  • 継続所有・使用(賃貸借・アウトソースを含む):設定した「目標」に照らして定期的にモニタリングします。使用価値が市場価値を下回る状態が一定期間続き回復の見込みがない場合は遊休状態と認識し、有効活用や売却を検討します。
  • 購入:CRE担当部門を窓口に調達プロジェクトチームを編成し、意思決定プロセスの透明性を確保しながら進めます。
  • 売却(証券化、セール&リースバックを含む):売却目的を明確にしたうえで、任意売買・競争入札・企画提案型売却などから適切な方法を選びます。売却後も継続使用する方が効率的な場合はセール・アンド・リースバック証券化の活用を検討します。

売却方法は3種類 — 一長一短を踏まえて選ぶ

遊休資産の売却など資産リストラを目的とする場合、ガイドラインは主な売却方法として次の3つを挙げ、それぞれ一長一短があるため、不動産の特性・市場の状況・経営方針に合わせて選択すべきとしています。

方法内容特徴
任意売買売り手と買い手が売却条件を協議して決定する双方が納得できる形で契約でき、売買リスクを軽減できる。一方で個別の事情に左右されやすく、手続きの透明性に欠ける場合がある
競争入札一定期日において最高価格を付けた買い手が購入する手続きが簡単で透明性が高い。一方で売り手は買い手の利用方法がわからず、買い手は売買条件を決められないなど、双方がリスクを負う
企画提案型売却買い手から利用方法の提案を受け、売り手が審査して売却先を決める透明性が確保でき売買リスクも軽減できる。一方で手続きが煩雑になり、一定規模以下の不動産への適用は困難

(出典:前掲ガイドライン第1章Ⅳ-5)

売却にあたってガイドラインが強調するのは、売却対象のCRE情報の棚卸しが正確かつ誠実に行われていることです。アスベストの残留や土壌汚染などの瑕疵を把握しないまま売却した場合、損害賠償責任だけでなく企業の社会的信頼を大きく損なうことを覚悟すべきである、と明記されています。ここでもステップ1の棚卸しの品質が効いてきます。

2027年4月からの新リース会計基準が、この判断を変える

ステップ3の「継続所有・使用か、購入か、売却か」という判断に、近く大きな変数が加わります。企業会計基準委員会(ASBJ)が2024年9月に公表した企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」です。

この新基準は2027年4月1日以降開始する事業年度から原則適用となり、借手は原則としてすべてのリース契約について「使用権資産」と「リース負債」を貸借対照表に計上します。これまでオフバランスだったオペレーティング・リースも計上対象となるため、財務諸表の見え方が大きく変わります。また、契約書に「リース」と明記されていなくても、実質的に原資産の使用権を移転するものであればリースと判断される点にも注意が必要です(出典:日本公認会計士協会「会計・監査用語かんたん解説集:新リース会計基準」)。

CRE戦略の実務への含意は明確です。従来、本社・店舗・物流拠点を「保有せず賃借する」ことにはバランスシートを軽く見せる効果がありましたが、新基準ではその効果が薄れます。保有と賃借の比較は、会計上の見え方ではなく、実質的なコストと事業戦略の適合で判断する必要があります。拠点を多数賃借している企業ほど影響は大きいため、Researchフェーズでの棚卸しには、所有物件だけでなく賃借契約の洗い出しも含めておくべきです。

ステップ4・5: Review→Act — 検証とフィードバック

レビューでは、アクションプランと実行情報を比較します。ガイドラインは、継続所有・使用物件のモニタリング、購入・売却価格の予算実績分析、ポジショニング分析の結果検証、財務影響の結果検証、CRE情報の確認といった8項目を挙げています。そして、この結果をステップ1のResearch(フレームワーク構築・情報棚卸し)にフィードバックして改善(Act)を施すことで、CREマネジメントサイクルが完成します(出典:前掲ガイドライン第1章Ⅳ-6・7)。

つまずきやすいのは「ステップ1」— 棚卸しをデータで解決する

サイクル全体を見ると、分析(Planning)や実行(Practice)の品質は、すべて最初の棚卸し(Research)の網羅性・正確性に依存していることがわかります。そして実務で最も工数がかかるのもこのステップです。

この重要性は、いまや社外からの要請としても表れています。東京証券取引所は2026年4月28日の要請アップデートで、上場会社への対応ポイントの一つに「保有する資産について、価値創出のため最適な状態となっているか」を掲げ、バランスシート上の資産を資本コストの観点から検証し、課題を把握したうえで改善に取り組むことを期待しています(出典:東京証券取引所「『資本コストや株価を意識した経営』に関する要請のアップデート」(2026年4月28日))。保有不動産を把握していなければ、この検証も投資家への説明もできません。棚卸しは、いわば説明責任の土台です。

TRUSTARTのR.E.DATAは、全国の不動産登記データを法人名義で名寄せし、未上場企業を含む法人の保有不動産を検索できるデータベースを備えています。自社CREの棚卸しはもちろん、有価証券報告書ではわからない取引先・提案先の保有不動産の把握にも使えるため、CRE戦略のResearchフェーズを支えるデータ基盤として活用できます。

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よくある質問

Q. CRE戦略は何から始めればよいですか?

A. 保有不動産の棚卸し(Research)からです。物理的・権利的・経済的・運用の4情報を整理し、自社がどこにどんな不動産をどんな権利関係で持っているかを正確に把握することが、以降の分析・施策すべての土台になります。

Q. 中小企業でもCRE戦略は必要ですか?

A. ガイドラインは企業規模を問わない前提で書かれており、中小企業では担当役員がCRE担当役員を兼任して関連部門を統括する体制が望ましいとしています。保有不動産の数が少なくても、遊休化や含み損の把握といった論点は同様に存在します。

Q. 保有不動産の一覧が社内に存在しない場合はどうすればよいですか?

A. 固定資産台帳と登記情報の突合から始めるのが基本です。全国の登記情報を法人名義で検索できるデータベースを使えば、台帳から漏れている物件や過去の取得物件も含めて網羅的に洗い出せます。

Q. 賃借している物件も棚卸しの対象ですか?

A. 対象に含めるべきです。2027年4月1日以降開始する事業年度から適用される新リース会計基準により、借手は原則すべてのリースについて使用権資産とリース負債を計上します。賃借契約の内容が財務諸表に直接影響するため、所有物件と同じ精度で把握しておく必要があります。

Q. CRE戦略の効果はどう検証すればよいですか?

A. ガイドラインはReviewフェーズの検証項目として、継続所有・使用物件のモニタリング、購入価格・売却価格の予算実績分析、ポジショニング分析および個別不動産分析の結果検証、財務影響の結果検証、CRE情報の確認の8項目を挙げています。Researchで設定した「目標」に照らして測定することが前提です。

まとめ

CRE戦略の立案は、Research(基盤づくり・棚卸し)→Planning(分析・施策立案)→Practice(実行)→Review(検証)→Act(フィードバック)のサイクルで進めます。Planningでは事業用・非事業用×コア・ノンコアのポジショニング分析と物件単位の個別分析を行い、Practiceでは継続所有・購入・売却の3類型から施策を選びます。2027年4月からは新リース会計基準により賃借もオンバランス化するため、保有と賃借の比較軸も見直しが必要です。

そして、これらすべての精度を左右するのが出発点の棚卸しです。ここが曖昧なままでは、分析も投資家への説明も成り立ちません。

R.E.DATA CRE サービス紹介資料「法人×不動産 クロス検索CREデータベース」の表紙 SERVICE DOCUMENT Researchフェーズの棚卸しを、登記データから始める。 R.E.DATA CRE(リデータCRE)は、法人名から保有不動産を横断的に検索できるCREデータベースです。サービス資料では、データの構造、検索できる条件、出力される項目、想定される活用シーンを掲載しています。サイクル全体の精度を左右するステップ1の情報整備に、そのままお使いいただけます。 R.E.DATA CRE サービス紹介資料/PDF・無料 資料を無料でダウンロード →

参考(一次情報)

本記事中のCREマネジメントサイクル・各ステップの作業内容に関する記述は、以下の公的資料を確認のうえ作成しています。

  • 国土交通省「CRE戦略実践のためのガイドライン」(2010年改訂版)第1章Ⅳ「CRE最適化マネジメントの実践」(Research/Planning/Practice/Review/Actの各作業項目、情報4分類の定義、CREフレームワークの3要素、ポジショニング分析・個別不動産分析の手法、施策3類型、売却方法3類型、Reviewの検証8項目)
  • 国土交通省「合理的なCRE戦略の推進に関する研究会」公表資料(ガイドライン初版2008年4月28日公表、手引き改訂版2009年3月31日公表)
  • 日本公認会計士協会「会計・監査用語かんたん解説集:新リース会計基準」(企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」は2024年9月にASBJが公表、2027年4月1日以降開始する事業年度から原則適用。借手は原則すべてのリースで使用権資産・リース負債を計上)
  • 東京証券取引所「『資本コストや株価を意識した経営』に関する要請のアップデート」(2026年4月28日。対応のポイント③「保有する資産について、価値創出のため最適な状態となっているか」)

※東証の要請は規則上の義務付けではなく、対応内容は各社の判断に委ねられています。新リース会計基準の適用にあたっては監査法人・会計専門家に、個別の売却・購入・税務の判断にあたっては各分野の専門家にご相談ください。

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