工業地域は、住宅を建てられる区分のうち、工場の側に制限が一つも残らない唯一の区分です。その代わりに、ホテル・旅館、学校、病院が建てられなくなります。住めるけれども、暮らしを支える施設の一部が欠ける区分です。
工業地域とは
工業地域とは、都市計画法9条12項に基づく用途地域のひとつで、主として工業の利便を増進するために定める地域です。準工業地域(同条11項)が「主として環境の悪化をもたらすおそれのない工業の利便」と、増進する対象である工業の側に限定を付けるのに対し、12項にその限定はありません。工業専用地域(同条13項)との差は「主として」の一語で、13項にはこれが付きません。この一語が、住宅や店舗の入り込む余地を残しています。
街の姿でいえば、臨海部や工業団地で、工場と物流施設のあいだに戸建てやマンションが残るエリアです。
建てられる建物・建てられない建物
建築基準法48条12項は「工業地域内においては、別表第2(を)項に掲げる建築物は、建築してはならない」と定めます。禁止列挙なので列挙にない用途は原則として建てられ、列挙された用途も特例許可を受ければ例外があります(48条12項ただし書・15項・16項)。
| 号 | 工業地域内に建築してはならない建築物 |
|---|---|
| 1号 | (る)項3号だけを引用=「個室付浴場業に係る公衆浴場その他これに類する政令で定めるもの」 |
| 2号 | ホテル又は旅館 |
| 3号 | キャバレー、料理店その他これらに類するもの |
| 4号 | 劇場、映画館、演芸場若しくは観覧場又はナイトクラブその他これに類する政令で定めるもの(客席にも床面積にも枠がありません) |
| 5号 | 学校(幼保連携型認定こども園を除く) |
| 6号 | 病院 |
| 7号 | 店舗、飲食店、展示場、遊技場、勝馬投票券発売所、場外車券売場その他これらに類する用途で政令で定めるもので、その用途に供する部分の床面積の合計が10,000㎡を超えるもの(政令=施行令130条の8の2第1項の場外勝舟投票券発売所) |
性格は1号がどこを引くかに出ます。(る)項のうち引かれるのは3号だけで、業種を名指しした工場の1号も、危険物の2号も引かれません。工場は業種でも面積でも原動機でも制限されません。ただしこれは用途地域による制限がないという意味で、消防法や高圧ガス保安法などの規制は用途地域とは別に適用されます。
制限は生活の側にあります。5号の「学校」には(い)項4号の「大学、高等専門学校、専修学校及び各種学校を除く」というかっこ書がなく大学・専修学校も不可、6号は「病院」だけで診療所は(を)項にありません。
建ぺい率・容積率・高さ制限
| 項目 | 工業地域 | 根拠(建築基準法) |
|---|---|---|
| 建蔽率 | 50・60%のいずれか | 53条1項5号 |
| 容積率 | 100・150・200・300・400%のいずれか(前面道路12m未満なら幅員(m)×6/10。指定区域は4/10または8/10) | 52条1項4号・2項3号 |
| 絶対高さ制限/外壁の後退距離/北側斜線 | いずれもかからない(対象は前2つが低層住居専用2地域と田園住居地域、北側斜線はこれに中高層住居専用2地域を加えた地域) | 55条1項・54条1項・56条1項3号 |
| 道路斜線/隣地斜線 | どちらもかかる(道路は勾配1.5、隣地は立ち上がり31m・勾配2.5) | 56条1項1号・2号ロ・別表第3三の項 |
| 日影規制 | かからない(別表第4(い)欄に掲げがありません)。ただし高さ10m超で冬至日に対象区域内へ日影を生じさせるものは、対象区域内にあるものとみなされます | 56条の2第1項・4項・別表第4 |
| 高層住居誘導地区 | 定められない(対象は第一種・第二種住居地域、準住居地域と近隣商業・準工業) | 52条1項5号・都市計画法9条17項 |
建蔽率は80%の指定がないことが効きます。53条6項1号の適用除外は1項2号から4号までにより限度が十分の八とされている防火地域に限られ、1項5号の工業地域には及びません。裏返しに3項1号のかっこ書「十分の八とされている地域を除く」にも当たらず、防火地域内の耐火建築物等も、準防火地域内の耐火建築物等・準耐火建築物等も10分の1の加算を受けられます。角地等の加算(3項2号)も別に効きます。
他の用途地域との違い
準工業地域と工業専用地域に挟んで並べます。
| 準工業 | 工業 | 工業専用 | |
|---|---|---|---|
| 業種名指しの工場/危険物 | 不可((る)項1号・2号) | 制限なし | 制限なし |
| ホテル・旅館/学校/病院 | 可 | 不可((を)項2号・5号・6号) | 不可((わ)項1号) |
| 住宅・共同住宅/物品販売店舗・飲食店 | 枠なし | 住宅は枠なし。店舗・飲食店は10,000㎡超が不可((を)項7号) | 不可((わ)項2号・3号・5号) |
| 建蔽率/容積率 | 50・60・80%/100〜500% | 50・60%/100〜400% | 30〜60%/100〜400% |
| 日影規制 | かかる | かからない | かからない |
準工業地域との差は工場ではなく生活の側にあり、工業専用地域との差は住宅と店舗が残るかです。(わ)項1号が(を)項全体を引くため、工業専用地域はこの禁止をすべて引き継ぎます。13区分の並びは用途地域13種類の比較で確認できます。
調査で確認すること
都市計画図で確定するのは区分の名前までです。
- 建蔽率が50%か60%か — 80%の指定がなく53条6項1号は及ばない。3項の加算は防火地域・準防火地域・角地等のいずれでも効く
- 容積率の指定値と前面道路 — 12m未満なら幅員(m)×6/10が同時に掛かり、小さいほうが上限(52条2項3号)
- 予定用途が(を)項に当たらないか — ホテル・旅館、学校、病院の3つが落ちる
- 店舗・飲食店・遊技場の合計床面積 — 10,000㎡の枠は(を)項7号。事務所は7号の列挙になく枠がない
- 隣接する日影規制の対象区域 — 高さ10m超で冬至日に日影を落とせば対象とみなされる(56条の2第4項)
- 敷地が境界にかかっていないか — 用途は敷地の過半による(91条)が、建蔽率・容積率・斜線は除かれる
代表的な建物
建物の名前で引ける一覧です。○=建てられる/△=規模や条件つき/×=建てられない(×も特例許可を受けた場合は例外があります)。(を)項の列挙にない用途は○です。
| 建物 | 可否 | 条件・根拠 |
|---|---|---|
| コンビニ | ○ | (を)項7号の10,000㎡の枠内 |
| スーパー・ドラッグストア | △ | (を)項7号。10,000㎡超は不可 |
| 飲食店 | △ | 同上。キャバレー・料理店は(を)項3号で不可 |
| 事務所 | ○ | (を)項に列挙なし。7号にも挙がらず枠がない |
| ホテル・旅館 | × | (を)項2号。規模を問わず不可 |
| マンション(共同住宅) | ○ | (を)項に列挙なし |
| 戸建て住宅 | ○ | 同上 |
| 保育所 | ○ | (い)項6号が学校と別に掲げる用途 |
| 小中学校 | × | (を)項5号。高校・大学・専修学校も含む(こども園のみ除外) |
| 病院・診療所 | △ | 病院は不可((を)項6号)。診療所は(い)項8号に別掲で可 |
| カラオケボックスなどの娯楽施設 | △ | (を)項に名指しなし。国交省の一覧表は10,000㎡以下と整理(行政実務の取扱い。条文上の定義ではない) |
| パチンコ・スロットなどの遊技場 | △ | (を)項7号の「遊技場」。10,000㎡超は不可 |
| コインパーキング(単独の自動車車庫) | ○ | (を)項に車庫の号がなく制限なし(屋根も柱もない平面駐車場は建築物に当たらず対象外) |
| 物流倉庫(倉庫業を営むもの) | ○ | (を)項に列挙なし |
| 工場 | ○ | 1号が引くのは(る)項3号だけ。業種・面積・原動機を問わず可 |
参考(一次情報)
- 都市計画法(昭和43年法律第100号)9条12項(定義)、9条11項・13項(対照)、9条17項(高層住居誘導地区)
- 建築基準法(昭和25年法律第201号)48条12項・15項・16項、52条1項4号・5号・2項3号、53条1項5号・3項・6項1号、54条1項、55条1項、56条1項1号〜3号、56条の2第1項・4項、91条、別表第2(い)(る)(を)(わ)の各項、別表第3三の項、別表第4
- 建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)130条の8の2第1項((を)項7号の政令=場外勝舟投票券発売所)
- 用途地域内の建築物の用途制限(国土交通省都市局「土地利用計画制度」所収) — カラオケボックス等を工業地域で10,000㎡以下と整理した行政実務上の取扱い。条文上の定義ではありません
条文はe-Gov法令検索の現行条文を2026年9月2日時点で確認しました。建蔽率・容積率の具体的な数値、斜線制限の緩和指定、高度地区・防火地域・準防火地域の指定の有無は、都市計画および地方公共団体の条例で定められます。用途制限には48条12項ただし書の特例許可が、斜線制限には特定行政庁の許可等による適用除外や緩和があります。必ず当該自治体の都市計画図および条例をご確認ください。
WRITTEN BY
TRUSTART編集部
TRUSTART JOURNAL 編集部


